大津漁協の永山さん・鈴木さんを支える会

2023年12月22日の裁判での準備書面全文。
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令和4年(ワ)第89号 労働契約上の地位確認請求事件
原 告  永山孝生 外1
被 告  大津漁業協同組合

原告ら第10準備書面

令和5(2023)年12月22日

水戸地方裁判所 民事1部合議B係  御中

上記原告ら訴訟代理人
弁護士  飯 田 美 弥 子

同   丸  山  幸  司

第1 はじめに
 本件は、被告が2人の原告らに対する解雇が有効であることを立証する必要があるところ、尋問を通じて、原告らとしては十分な反証ができたものと考えている。
 本件で特徴的なのは、被告が訴訟に提出した書証に恣意的な改変を加えていることである。たとえば、甲第●号証の録音反訳であるが、これについては指摘を受けても訂正することなく、結審を迎えようとしており、驚くばかりであるが、被告の根本姿勢を象徴する訴訟態度であるということができる。

第2 原告永山の解雇について
 被告が主張する原告永山の解雇理由は、①「虚偽情報のリーク」と②「虚偽告訴」であるが、本件の尋問を通じて、原告永山の行動には合理的な理由があったことが明らかになったし、そもそも被告は、「虚偽」だとの点を立証できていない。
 1 ①「虚偽情報のリーク」(放射能数値の隠蔽)について
 被告は、放射能数値の隠蔽について、被告自身は隠蔽も改ざんもしておらず、加工製品については、出荷予定のない業者の数値は公表しないという茨城県の基準に従ったに過ぎないという主張をしている(被告の準備書面(4)3頁)。
しかし、そもそもそうした茨城県の基準は本件で証拠提出されているわけではない。当時、参事であった証人坂本善則氏(以下、「坂本証人」という)も、茨城県が説明した文書の存在を知らないと述べている(坂本証人調書30頁)。
平成24年当時茨城県農林水産部漁政課の技佐であった益子氏も、陳述書(乙15)の中では、加工製品の基準についての文書の存在について言及していない。「風評の払拭という役割にふさわしくないと加工業者が判断した製品は、市場への出荷が見送られました。結果的に試作品のような形となった製品は、(略)県として検査結果を公表する必要はありませんでした。」(乙15・2枚目)と陳述しているが、これは、高い数値は公表しない、ということに他ならない。
坂本証人も、「(略)その数値を公表するっていうのは、私が決めるんじゃなくて、県の方が決めるんですよ。」(坂本証人調書27頁)と、茨城県に責任があるとしつつ、「そうですね。数値が高ければ、出荷しないっていうことにつながりますね。」(同31頁)と、高い数値を隠蔽する結果になっていたことを認めている。
このように、本件の尋問の結果もふまえてみると、そもそも原告永山がマスコミに情報提供した内容のどこに「虚偽」が存在したのかが不明であり、被告は「虚偽」であったことが立証できているわけではない。むしろ、原告永山が問題にしたとおり、被告が茨城県と共謀して実行した、高い数値の隠蔽行為は、まさに数値が高いから隠蔽するということでしかなかったのであり、原告永山がこれをマスコミに情報提供したのは、正当な行為であったことが明らかになったといえる。
従って、虚偽情報のリークという解雇理由は、全く正当なものではない。

 2 ②「虚偽告訴」(「がんばる漁業」の不正請求の刑事告発)について
(1)がんばる漁業の不正請求の刑事告発についても、被告は一体なにが「虚偽」だったのか立証ができなかった。すなわち、被告は、原告永山が刑事告発した行為が不合理であったことを立証できていない。
 むしろ、この点に関して被告が提出した証拠の変造の疑いは、尋問を通じてむしろ強まる結果となっている。
 (2)原告永山が刑事告発した当時および解雇された当時、「がんばる漁業」の出張費等について不正請求がされていると疑う合理的な理由が存在した。
 原告永山が不正請求を疑ったのは、自家用車で高速道路を使用しているのに、「鉄道乗車券」も計上されていたり、飲食代も出張手当と別に計上されていること、実際は出張していないのに出張したものとして請求している可能性が高いこと、などであった(原告ら第3準備書面2〜3頁)。
 これに対し、被告は、原告永山が刑事告発するまでの間、本件訴訟で提出したような証拠を原告永山に示したことはなかった。たとえば坂本証人は、公金は飲食に使っていないという説明を、裁判で提出しているような領収書とか精算書といった根拠に基づいて説明したのか問われ、「いや、公金は使ってないよという説明をしただけですね。」「それはその場の説明だけだったと思います。」と、原告永山に根拠を示さなかったことを証言している(石川証人調書37〜38頁)。
 また、被告は、「個人の自家用車を使用したときはその区間にかかる交通費を鉄道賃で支給する。」との40年以上の慣例を令和2年3月の改訂で明文化したとのことであるが(被告の準備書面(5)2頁)、そうであれば原告永山が刑事告発するまでの間に旅費規程(乙7)が同人に示されることはなかったわけである。
 従って、被告は、原告永山に対し、同人の疑念の払拭するために、根拠も示した上で十分な説明をしていたとは認め難いのである。
 (3)そればかりではない。本件では、被告が本件訴訟に提出した証拠に基づいても、なお疑念は残されている。
  ア まず第1に、被告が提出した旅費精算書である。
乙第8号証の1ないし5は、同じ作成日付なのに、乙8の1と5だけ、他の3つの書証と異なる特徴があり(原告ら第5準備書面3〜4頁)、原本の紙質も異なっている。こうした点について、被告からは何ら説明がないし、坂本証人も尋問の中で言及はできていない(坂本証人調書37頁)。
  イ さらに、坂本証人は、被告主張と矛盾する証言もしている。
被告は、平成25年5月27日の精算により当時の坂本参事に支払われた旅費が8万6440円と主張し(被告の準備書面(3)3頁)、原告がこれに対し平成25年5月2日の出張命令書(甲40)を提出して矛盾を指摘したところ(原告ら第5準備書面3頁)、本来2回あった5250円の旅費(甲29の2、甲40)のうち、いずれかの精算が欠落したと主張した(被告の準備書面(5)2頁)。
 ところが、坂本証人は、がんばる漁業の出張命令書(甲29の1)の「済」というゴム印が押されている意味を問われ、「(略)これで支払い済みっていう意味だと思いますよ。」(坂本証人調書36頁)「これは済みが押されているから、お金が払われてるっていうことですよね。」「そうですね。」(同37頁)と証言した。そうであれば、2回の旅費(甲29の2、甲40)の精算に欠落はないこととなり、被告の上記主張と矛盾するのである。
  ウ 被告が提出した旅費規程についても不自然さは残る。被告は、上記のとおり「個人の自家用車を使用したときはその区間にかかる交通費を鉄道賃で支給する。」との40年以上の慣例を令和2年3月の改訂で明文化したとのことであるが(被告の準備書面(5)2頁)、石川証人は同人が参事だったときの改訂で明文化しなかった不自然さを説明できなかった(石川証人調書41頁)。
平成30年12月末で終了している「がんばる漁業」の補助金に、令和2月3月27日改訂の旅費規程(乙7)を適用するというのもおかしな話である(石川証人調書30頁)。
  エ 以上のように、「がんばる漁業」の不正請求については、ここに至ってもなお疑念が残っており、そうであれば、原告永山の当時の刑事告発は合理的なものだったのである。

第3 原告基永の解雇について
1 労災療養期間中であり解雇が制限されるべきであること
原告らは、原告基永の解雇が、労災療養期間中の解雇であり、制限されるべきであることを、原告ら第9準備書面で主張したが、尋問でも、原告基永への心理的負荷が非常に強いものであったことが明らかになった。
なお、原告らは、第9準備書面においては、「業務による心理的負荷評価表」について、平成23年のものを指標とする旨記載していたが、同表は令和2年5月29日に改正されており、原告らは改正されたものを提出している(甲51)。
(1)原告らは、被告の専務理事が、着任早々、「お前を採用して失敗した」などと発言したこと、しかもそれを同僚の面前で行っている点で、心理的負荷は強と評価されるべきであることなどを主張した。
この点につき、当時の石川秀夫専務理事(以下、「石川証人」という)は、「その記憶はちょっとありません。」「覚えていません。」と証言し、認めることはなかったものの、否定することはできなかった。
これに対し、原告基永は、団体交渉を通じてどのように職場環境の改善をしてほしかったかを問われた際に、「その団体交渉では、もう、おまえはどうせ要らないんだって、石川専務も言っているんですけれども、おまえを採用して失敗したって。要らないもの扱いなので、団体交渉の中では、常にそういう扱いをされて、そうさせないというか、そうした気持ちのところから改善をしてほしいと言いました。」(基永本人調書16頁)と団体交渉での発言と関連させて証言もしており、原告基永の証言は信用することができる。
(2)被告における違法行為等を問題にした行動が批判にさらされたこと
 原告基永は、原告永山らとともに、被告における違法行為等を問題にし、被告の内部において改善を求めて働きかけをしていた。
ところが、被告は、原告基永らに対し圧力をかけた。特に、職員アンケートは(甲15)、原告永山らの行動は非難されるべきで、原告永山らとは付き合うなという被告の見解を公式に示すものであった(甲15)。
この点、同アンケートを作成した石川証人は、「若い人たち、そこに参加してない職員を含めて今騒いでいることがどういう意識があるかっていうのを聞きたかっただけです。」とその目的について説明し(石川証人調書46頁)、「そういう人間が職場内にいた場合に、あなたならどうしましょうかという質問です。」(同)などと証言するが、アンケート実施の動機が理解不能であるし、アンケートの設問自体が誘導的で、回答が1つに決まってしまうような類のものであるから、原告らを職場から排除する目的で実施されたとみるのが自然である。
原告基永は、このアンケートの質問を見て、「(略)良くしようという気持ちで頑張っている人たちを孤独にさせる、とてもいやらしい、本当にひどいアンケートだなと思って、永山さんもそうですし、かわいそうに思いましたし、今後、自分に降りかかってくるかもしれないと思って、すごく恐怖を感じて、苦しくなりました。」と当時の胸の内を語っているし(原告基永本人調書11頁)、原告基永は、同人以外は全員が回答したことも認識していたのであるから(同12頁)、これによって被告から受けた原告基永の心理的負荷は、相当強度のものであったことが窺えるところである。
(3)他港集計及び漁獲集計の業務に関し理不尽な叱責を受けたこと
 令和3年2月3日に原告基永が受けた叱責も理不尽なものであったことが明らかとなった。
坂本証人の証言では、時間帯や内容において原告基永の記憶と異なるところがあるが、仮に坂本証人の記憶を前提とするとしても、同人が原告基永以外にもゲームをしていた2人の職員を怒ることがなかった(原告基永本人調書13頁)など、やはり理不尽な叱責であったことに違いはない。
この点、坂本証人は、原告基永以外の2人の職員がゲームをしていたかについて「(略)ちょっと分からないですね。」と、少なくとも否定することができないのであり(坂本証人調書43頁)、当時の坂本参事の原告基永に対する叱責が、他2名の職員への対応と比較して、公正さを欠くものであったことは明らかである。
同時に、坂本証人は、自身が業務時間中にゲームをやっているのではないかと問われ、「当時は、どうだったろう。」(同42頁)などと否定せず、このような証言からも、原告基永への対応が不当に厳しかったことが推認できる。

 2 「身体、精神の障害により、業務にたえられないとき」に該当しないこと
(1)仮に原告基永の解雇が労災療養期間中の解雇であると認められなかったとしても、被告が主張する「身体、精神の障害により、業務にたえられないとき」に該当しない。仮に該当すると認定されるとしても、解雇は権利濫用にあたる。
 被告は、「原告基永に対し、繰り返し、病状や復帰の見込み等の報告を求めたが、報告がなく、令和3年2月4日から11か月以上も欠勤が続いているため、やむなく就業規則(甲1)第47条1号「身体、精神の障害により、業務にたえられないとき」に該当すると判断し、普通解雇としたもので、手続に瑕疵などない。」(被告の準備書面(3)9頁)と主張するものであるが、石川証人、坂本証人の証言は、これを裏付けるどころか、かえって被告の主張に理由がないことを明らかにした。
 具体的には、次のとおりである。
(2)まず、石川証人も坂本証人も、団体交渉が始まって以降、診断書なり病状の報告を求めることが容易であったのに、それをすることなく解雇したことを否定できなかった。
 石川証人は、病状の報告などについて「求めたけど結果はなかったってことですね。しつこいぐらいは求めてはいませんけど。」などと証言したが、原告ら訴訟代理人から「求めてないですよ。期限切って求めたりとか、そういうこともないですよ。」と再質問され、「期限を切った覚えはちょっとありません。」と証言するのがやっとであった(石川証人調書39〜40頁)。
 坂本証人も、裁判官から、組合が入ってきた後の令和3年4月以降で、状況を報告しろとか診断書を出せとかそんな話はされたか、と問われ、「いや、確かなかったですね。」と証言している(坂本証人調書45〜46頁)。
 このように、そもそも、原告基永の解雇は、「身体、精神の障害により、業務にたえられないとき」に該当するか否かの前提情報すら十分に取得することなく行われた解雇なのである。
(3)原告基永の休職が被告により引き起こされた点も十分考慮されるべきである。
 第9準備書面および本書面で主張したとおり、本件において原告基永が休職する原因となったのは、被告の対応により原告基永が心理的圧迫を受けたことにある。
 すなわち、原告基永は、市場食堂を統括する立場を任される予定であったのがそれを打ち砕かれ、さらに当時の被告の石川専務理事に、「お前を採用して失敗した」などと同僚の面前で言われ、職員アンケートによって原告永山とは付き合うなという公式見解を示されて心理的に孤立させられ、出勤できるなくなる前日にも理不尽に叱責されるなどしたのであって、こうした被告の一連の行為が原告基永の体調不良の原因となったことを、被告は十分認識していたはずである。そうであれば、被告は、「身体、精神の障害により、業務にたえられないとき」に該当するとして解雇を検討する際に、被告自らが原因を作ったことをふまえ、原告基永からより丁寧に事情を聴取するなどすべきだったものである。ましてや労働組合から職場復帰に向けての話し合いが提案されている最中に解雇するなどはあってはならないことである。
 よって、このような観点からも、被告が行った解雇は権利濫用にあたり、原告基永に対する解雇は無効である。

第4 結語
 以上のとおり、本件においては、原告らいずれの解雇についても、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当性を欠くものである。
 よって、原告らの請求は認容されるべきである。

以 上